雨上がりの夜、
Bar Pivotに一人の男が訪れた。
「引っ越しの整理をしていたら、
懐かしい手帳が出てきたんです」
男はそう言って、ポケットから
表紙のよれた小さな手帳を取り出した。
「私が会社を経営していた頃の物なんですが……」
男は、
三代続いた小さな町工場の
社長だったという。
社員一人ひとりの誕生日や、
誰の子供が今年何歳になったか、
誰が最近腰を痛めているか、
そんなことまで全部覚えていた。
「大手を真似て「号俸表」を作りました。
給料がきっちり決まっている表があれば、
それが社員を正当に評価する
最善の手段だと思ったんです」
号俸表に沿って評価を上げれば、
給料も自然と上がっていく。
それは、
会社の成長と歩調を合わせるように、
心地よく回っていた。
「社員は喜んでくれていたし、私も嬉しかった。
何も間違っていないはずでした」
だが、そう上手くはいかなかった——。
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