蒸し暑い空気が路地に澱む七月の中旬。
俺は数年ぶりに、Bar Pivotにやってきた。
マスターに謝るためだ。
——あの夜のことは、まだ鮮明に覚えている。
社員が12名になった頃。
売上も右肩上がりで、
俺はかなり浮かれていた。
自分には経営の才能があると
己惚れていたのだ。
「マスター、うちの社員はほんとにもう。
言ってもやらないし、気も利かないし。
いっそ全員替えたいくらいですよ」
俺の愚痴に対し、
マスターは静かに尋ねてきた。
「評価の基準や給料の決め方などは、
きちんと形になっていますか。
いわゆる、人事制度というやつです」
「何もしていませんが、
そんなの関係ないですよ。
そんなものがあったって、
結局はやる気の問題ですから」
・・・
今なら、あの日マスターが粘り強く言ってくれたのは、
俺のことを本気で心配してくれていたからだとわかる。
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